最高裁判所第二小法廷 昭和50年(オ)203号 判決 1977年12月23日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人水野東太郎、同荒井秀夫、同平岡高志の上告理由について
土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去土地明渡を請求する訴訟においては、現実に建物を所有することによつてその土地を占拠し、土地の所有権を侵害している者を被告としなければならないのであつて(最高裁昭和三一年(オ)第一一九号同三五年六月一七日第二小法廷判決・民集一四巻八号一三九六頁)、その建物を買い受けた者であつても、売買契約に所有権移転の時期を売買代金完済の時とする旨の特約が定められているときは、その代金を完済することによつて現実に建物の所有権を取得した時に被告適格を承継するのであり、右買主が、売買契約に基づいて所有権移転仮登記を経由し、代金完済後にこの仮登記に基づく本登記を経由した場合であつても、これによつて、仮登記の時に所有権移転のあつた事実が擬制されるものではないから(最高裁昭和三三年(オ)第八七一号同三六年六月二九日第一小法廷判決・民集一五巻六号一七六四頁)、買主が仮登記の時にさかのぼつて被告適格を承継するものではない。原審の適法に確定した事実関係によると、(1)本件土地の所有者である被上告人は、その地上の本件建物の共有者である訴外古谷亮平ほか二名に対し、本件土地の所有権に基づき建物収去土地明渡を求める訴を提起し、勝訴の判決(以下「本件確定判決」という。)が確定した、その事実審口頭弁論の終結時は昭和三五年中である、(2)上告人は、古谷ほか二名から右終結時より以前の昭和二八年八月一〇日に本件建物を買い受け、昭和三三年五月一〇日所有権移転の仮登記を経由したが、売買契約に所有権移転の時期を売買代金完済の時とする旨の特約があり、事実審口頭弁論の終結時より以後の昭和四〇年一一月ころ売買代金を完済して本件建物の所有権を取得し、昭和四四年一一月一二日右仮登記に基づく本登記を経由した、というのであつて、右事実によれば、上告人が本件建物の所有権を取得したのは本件確定判決の基礎となつた事実審口頭弁論の終結時より以後のことであるから、上告人は、右仮登記及びこれに基づく本登記の有無にかかわらず、本件確定判決の基礎となつた事実審口頭弁論終結後に本件建物を収去して本件土地を明渡すべき義務を古谷ほか二名から承継したものであることが、前記説示に照らして明らかである。それゆえ、上告人を本件確定判決の口頭弁論終結後の承継人にあたるとした原審の判断は、結論において正当であり、所論の引用の各判例にも抵触しない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 本林 譲 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田 豊 裁判官 栗本一夫)